2月24日にロシアが侵攻を開始してから11日が経ちました。想定以上の戦果を出して侵攻に抵抗するウクライナ軍、破壊されるヨーロッパ都市、原発への攻撃、前例のない経済報復措置、かつてないほどの団結を見せる国際社会、東西冷戦の時ですらなかったスポーツ・文化方面での特定国家の排除・・・などなど2週間前の自分に言っても全く信じないようなことがたくさん起きており、世界の加速的な変化を感じるばかりです。そして今回の事案発生により、隣国スロバキア社会も否応なく変化していっております。
1.難民受け入れ姿勢の変化
開戦以後、欧州には3月5日時点ですでに130万人を超す難民が出ています。これがどれくらい多いかといいますと、2015年に大騒ぎになった欧州へのシリア難民が殺到した時が約100万人と言われているので、たった11日間で欧州移民危機の人数を超えました。(参考:UNHCRサイト)
この数字は毎日更新されているので、近日中に200万人を超え、まだまだ増えると思われます。このうち、スロバキアには10万人を超す難民がすでに来ています。
ただ、2015年の時と決定的に違うのは、国・国民が難民に対して非常に好意的であることです。国境情報は政府や現地で支援に当たっているボランティアが公表しているのですが、
・大幅増員による国境審査の待ち時間解消
・国境ゲート付近には食事・医療・衣類などを無償提供するテントや区画を設営
・SIMカードの配布
・入国審査支援のための書類づくりや通訳支援
・寝泊りできるよう解放された公民館
・スロバキア東部主要都市であるコシツェへの無料バス輸送
・政府による長期滞在許可の特別付与
・母国に帰る外国人には帰国までの交通支援
など、非常に手厚い難民支援を行っています。聞くところによれば、他国ではプラハ・ワルシャワ・ブダペストなどの主要都市へのボランティア配車や、難民対象の宿の無料宿泊といった援助もしているとのことです。
実は、東欧地域というのはこれまで難民受け入れにきわめて否定的でした。従来、EU内でも特に西欧側の国は中東紛争等に係る難民を「人道的見地」から保護しようという意見が多数であったのに対し、実際に難民の入り口になるのはヨーロッパ東部の国であったため、どうしても初動で負担が増大する東欧諸国は難民に否定的であったのです。特にハンガリーは「難民受け入れを支援した人に罰則を与える」というなかなか無茶苦茶な法律を可決するくらいに難民嫌いだったのが、方針転換には驚くばかりです。
手厚い支援の象徴の事件として、ある母親が年老いて国外退去できない自分の母親を置いてウクライナから避難できないため、11歳の息子をスロバキア行列車に一人で乗せてやったところ、それをスロバキア人が保護し、最終的に本人はブラチスラバに無事到着。後日、その母親からスロバキア警察へお礼のビデオメッセージが送られてきたということで、警察がFacebook上でその動画を公開しました(日本語字幕は現地在住15年の方がつけました)。
原発が攻撃されたザポリージャから一人でスロバキア国境に着いた11歳の少年。母親からの感謝のビデオをスロバキア警察がFBで公開。母親は未亡人と自己紹介し、一人で動けない母親を残して行けないので少年を一人で電車に乗せたと説明「どうかウクライナの子供達に安住の地を」https://t.co/NNIjFM4TG1 pic.twitter.com/4rXM6zkeoV
— kuri (@kuri_in_SK) 2022年3月6日
少なくとも当初想定されていた「難民流入による社会の大混乱」というのは多くの人間の善意や支援によって食い止められています。とはいえ、今後のロシア侵攻によってはもっと多くの難民が発生することが想定されており、人々の善意やリソースが押し寄せるウクライナ難民に耐えきれるのかはなんとも言えません。
2.対ロシア感情の変化
以前、「スロバキアの対ロシア感情について」という記事で、「スロバキアでは歴史的・地理的・民族的観点から対ロシア感情は良好な傾向がある」という話をしましたが、ここ最近では目に見える形で対ロシア感情が悪化しています。
まず、今回スロバキア政府はEUの一員としてロシアの侵略を強い言葉で非難しているのですが、この政府の姿勢を8割程度の国民が支持をしているそうで、以前の親EU・親露でほぼ真っ二つの世論になっていたことを考慮すると異例です。
また、先日ロシア感情の悪化を象徴する事件がありました。スロバキアには、「スラヴィーン」という、小高い丘の上に戦勝記念慰霊碑が立っています。この慰霊碑では、第二次世界大戦で亡くなったスロバキア人の他、当時スロバキア解放のためにナチスドイツと戦って亡くなった旧ソ連軍の軍人も慰霊されているのですが、その慰霊碑に何者かが青と黄というウクライナ国旗色で落書きをしました。
この件についてはスロバキア警察は器物損壊として捜査を始めたほか、スロバキア政府も「当時戦ってくれた旧ソ連の英霊と今侵略を行っているロシア軍は別として考えるべきだ」と声明を出しております。
その他、在スロバキアロシア大使館前では抗議デモも行われており、大使館前の歩道にはウクライナ国旗が描かれておりました。こういった抗議活動からも、当地の対ロシア感情の悪化が伺えます。
3.政策の変更
ロシアは石油・天然ガス・原子力燃料などの資源エネルギー輸出大国であり、東欧地域でもロシア産の地下資源を大量購入、その恩恵を恩恵を受けています。しかし、今回の経済制裁によるロシア製品ボイコットも相まって、ロシアへのエネルギーの依存を辞める動きが模索されています。現在、こちらでもガソリンや電気の価格が高騰しておりましたが、この高騰が一段と上昇することになるかもしれません。
欧州では第二次世界大戦以来と言われるレベルでの国同士の衝突となった今回の戦争。一体いつ、どうやって終わらせられるのでしょう。