水原容疑者の金銭横領に係る元海外在住者の私見

長らく更新をしてこなかった当ブログですが、ふと書きたいことが湧いてきたので再び更新をいたします。

さて、世間では大谷翔平選手の元通訳である水原一平容疑者(各報道機関でもこの呼び名を使っているので、あえてこう書きます)の巨額横領事件が連日話題になっております。

www3.nhk.or.jp

まず、報道によれば水原容疑者は専属通訳という立場を悪用し、大谷選手の口座を勝手に操作して違法賭博の胴元へ送金を行っただけでなく、自身の違法賭博に大谷選手の給与口座内の資金を流用したことが露見しないよう、様々な工作を行ったとのことです。 hochi.news

さらに、こうした偽装工作を嘘をついてごまかそうとした、他の代理人を専属通訳の立場を使って大谷選手から遠ざけていた、大谷選手の選手生命の断絶にもなりうる借金の肩代わりを依頼したなど、日に日に悪質性を示す証拠が明らかになる始末です。しかしながら、当ブログでは水原容疑者の悪質性について、私見を述べることはいたしません。今回は、自身のかつての海外在住経験から海外移住時における銀行口座の開設についてコメントしたいと思います。

まず、働かれた経験のある人間ならば、ほぼ全員が銀行口座を保有しているはずであります。実際、給与支給は口座振り込み、支払いも口座振り込みやクレジットカード払いで行われることが当たり前の現代において、銀行口座を開設していないことは、社会経済活動への参画が著しく制限され、給与の受け取りや各種支払いで不都合を生じることは想像に難くありません。

そのため、海外在住となった場合、最初にやることは地銀行での口座開設となります。その土地で暮らしていく以上、現地の口座を持たなければ、家賃や光熱費も払えません。私も、赴任直後には大使館の現地職員に連れられて、現地の銀行にてユーロ紙幣が扱える口座の開設を行いました。

しかし、慣れない土地での銀行口座の開設は窓口での身分証明、銀行からの重要事項の説明に対する同意など、言語能力だけではなくその国の慣習などに精通した通訳の帯同がなければ行うことが難しいです。実際、私も銀行口座を開設する際には、大使館の現地職員にガッツリ支援をしてもらいながら必要書類を記入し、銀行口座を開設しました。当時の書類を探してみたもののどうやらもう処分をしてしまったようですが、大使館職員と銀行員がスロバキア語で延々会話した後、一枚スロバキア語が書かれた紙を差し出され、「ここにサインしてね」と言われたことはよく覚えています。

ただ、当時サインしている最中は「これ、大使館現地職員と銀行側がグルなら何でもできちゃうよなぁ」という心境でした。銀行口座は詐欺やマネーロンダリングといった悪事にも転用できますし、そもそも目の前のサインしてくれって言われたスロバキア語の書類が全く違う、それこそ連帯保証人にでもなるための書類であったとしても、読めない言語で書かれた書類である以上見破ることもできません。

大谷選手も2017年、23歳の時に渡米しました。当然渡米直後に銀行口座の開設を、元通訳の水原容疑者の支援のもとで行ったことでしょう。その時に水原氏の立場であれば、口座の本人のみが知りえる情報を把握することは容易だと思います。

今回、アメリカ捜査機関の迅速な捜査により、大谷選手は「被害者」であることが早期に証明されたからよかったものの、水原容疑者が大谷選手の金を盗んだことが発覚した直後は、一部の報道機関や識者から「大谷翔平が気付かないのはおかしい」「大谷翔平も賭博に関わっているのではないか」と大谷選手を疑うコメントも散見されました。手厳しいことを言いますが、こうしたコメントが出てくるのは、自身の第一言語が通じる環境でしか暮らしたことがなく、言語が通じないアウェーの地で生活を立ち上げることに対する困難さへの想像力が欠如している、と言わざるを得ません。言語の通じない地で暮らしを立ち上げるには、その地の言語を扱うことができ、慣習にも精通している人間を全面的に信頼するしかないのです。

最後に、現在日本にも多くの外国籍の方が移住してきており、人口減少社会においてはこれからも増加していくことが予測されております。もし、あなたの身の回りに新たに日本での生活を立ち上げる外国籍の方がいらっしゃれば、そこには多大な困難を伴うんだ、ということに思いを馳せ、可能な範囲でその方の生活立ち上げの支援をしてくだされば、きっと多くの方が日本にスムーズに順応できるようになると思います。そういったことを一人でも多くの方が感じてもらえるようになれば、元海外在住経験者としてはこの国はもっと住みやすい良い国になるんじゃないかな、と考える次第です。