インターネットの国境

先日、欧州在住の邦人にしかほぼ関りがないであろうプレスリリースがYahoo! Japanより出ました。

privacy.yahoo.co.jp

本件、簡単に要約すると「2021年4月6日からEU+イギリス地域からYahoo! Japanのサービスをメールなどごく一部を除き使うことはできないよ。」ということです。

今日はインターネットでも国境ができつつある現状について書いていきます。なお、今回の話はインターネットサービスに関わる話で僕も素人ですので、この手の話に詳しい知り合いに聞いた話を元に書いています。

今回、ヤフーが欧州でのサービスを打ち切るに至った理由は明かされていません(詳しい人曰く、理由を明かす=今ルールが守られていない状態にあることを自白する行為だからだそうです)。ですが、一部界隈からは今回のヤフー側の対応は「GDPR対応が困難になったから」と推測されています。

GDPRとは、「EU一般データ保護規則General Data Protection Regulatio)」と言われるEUが2016年に作ったEU域内住民の個人情報保護に関する規則のことです。

ja.wikipedia.org

ちなみに、wikipediaはものすごく長いうえ専門でもない限り読んでもまるで分からないので読まなくてもOKです。

ざっくりいうと、この規則ではEU圏に住む人のプライバシー情報を域外に持ち出すことを禁止していたり、プライバシー情報の利用や保管に関して厳しい条件を課しています。さらに厄介なことにこの法律は域外適用、つまりはEU在住者のプライバシーに関することは、そのデータが保管されているのがアジアだろうとアメリカだろうと適用するという非常に厳しいものです。

今の世の中、インターネット上のサービスを使っていない人はいないのでは、というくらいにインターネットは我々にとって身近なものになりました。そして、インターネットというのは簡単に国境を越えられます。現に、GAFAのサービスを何にも使っていない、という日本人はなかなかいないでしょう。しかし、GAFAアメリカの企業であり、日本のユーザーの個人情報も彼らの手で簡単にアメリカなど国外に持ち出すことは可能です。

こういった状況で、特に個人情報などプライバシー意識の高い欧州地域は常々懸念しており、GAFA企業に巨額の罰金を科したりといった嫌がらせをしています。そして、最終的には「EU地域の情報は外に持ち出しさせねぇ!」というルールを今日作るに至ったわけです。

この法律、サービスを提供する側にとって何が厄介なのかというのをプロに聞いたら、以下のとおり教えてくれました。

・仮にアジアの国からEU向け住人も利用できる新規のウェブサービスを作るにあたり、EUの法律に精通した専門家に監修を受ける必要があるが、まずそんな専門家は早々いない。

・中身が解釈次第な曖昧な書き方をしている上、出来立ての規則なので、為政者側に恣意的な運用がされるかもしれない。そのため、設計段階でウェブのサービスにこの法律の対策を落とし込むのが困難。

・さらに、対策を施したうえでサービス開始しても、違法だと訴えられた挙句法廷で後出しジャンケンされるリスクはつきまとう

・少なくとも俺はGDPRに関わりたくない。

というわけで、開発する側としてはGDPRには関わりたくないという断固たる意志が示されました。

隣国中国では、ネット検閲がかなり厳しく大半のサービスが中国国内からのアクセスが遮断されることから、万里の長城(The Great Wall)になぞらえて「グレートファイアウォール」などと言われることもありますが、EUでも同じようなインターネットの壁が規則という形で建設されつつあるのかもしれません。

個人的な感想になりますが、インターネットをWindows95の時から使っている身としては、こいつは20世紀的な国境を越えられるツールであってほしい、という願いがありましたが、インターネットが社会と地続きになっていくと、結局は国境というものに縛られざるを得ないのだな、ということでこの閉鎖的な状況はやや残念に感じますね。